Fieramente


スローモーションで倒れる男の先、見開かれる双眸と視線が交わる。
揺れる硝子玉の色にシーザーが懐かしさを覚えたのは、気のせいか。
分からないまま、倒れた男が暫く起き上がらないことを確認すると、すぐさま踵を返す。
長居する理由はない。
シーザーの気紛れと自分の幸運に感謝しろよ。
絡まれていた子供。
恐らく、自分より少し下くらいだろうか。
貴族を思わせる身なりが、この街の住人でないことを示す。
さっさと立ち去れ。
普段なら容赦なくぶん殴った後に身包みを剥いでやるところだが、今日は気分が良いから見逃してやる。
視線で子供を牽制したシーザーは、裏路地に姿を消す。
――はずだった。
ガンッ。
気配を感じるより先に、頭に衝撃が走る。
揺れる脳に、霞む視界。
膝を着いて振り返るシーザーを、先刻の子供が見下ろしていた。
「てめー、やりやがったなッ!」
辛うじて声を張り上げるも不意打ちを受けたシーザーの方が分が悪かった。
未だ頭を押さえるシーザーに、子供は容赦なく拳を振り上げた。
ドゴッ。
二度目の強い衝撃。
避けることなく喰らったシーザーの記憶は、其処で途切れる。
遠退く意識の中、誰かが自分を呼ぶ声を聞いた気がした。



次にシーザーが目覚めたのは、見知らぬ部屋だった。
寝かされていたベッドは天蓋付の立派な物で、沈む身体に違和感を覚える。
自分が暮らす部屋とは正反対の場所。
どうして自分は此処に居るのか。
ズキリと痛む頭を押さえるシーザー。
「起きたのか?」
記憶を辿り、原因に思い当たったシーザーは覗きこんできた子供の顔を力いっぱい殴り飛ばそうとした。
腕を動かした瞬間、手元で覚えのない金属音が響く。
両手の自由を奪う、鍵付の手錠。
犯罪者を思わせる拘束に、シーザーの殺気が増す。
強ち間違っていないが、現行犯で捕まるようなヘマはこれまでしていない。
むしろ、この件はこちらが被害者だ。
「覚悟は出来てんだろうな」
射殺さんばかりの視線を向けたにも関わらず、子供は何故か破顔した。
「シーザー!」
歓喜に満ちた声に勢いを削がれる。
「気安く呼ぶな」
「覚えてないのか?」
「てめーなんざ、知るかよ」
喜びから一転、驚愕に揺れる眸。
突き放しても相手は簡単に退かない。
「お前、シーザーだろ?」
「さあな。少なくとも、てめーの言うシーザーじゃあないのは確かだ」
「ジョセフ・ジョースター。皆はジョジョって呼んでる」
名乗ったのは、存在を示すことで気付いて貰えると考えたからだろう。
浅はかなことだ。
仮に繋がりがあったとして、素直に答えるとでも思っているのか。
「だから?」
知らない。
それは、嘘だった。
初対面でどこか懐かしく感じたのは、過去に出会った記憶があったせいだ。
とっくに忘れていたし、思い出すつもりは二度となかった。
まだ貧民街なんて場所で暮らす前の話。
祖父の友人だという貴族の屋敷に連れ出され、その家の子供に懐かれた。
何度か訪れる度に、シーザーの後をついて回って。
弟のような存在を構った記憶はある。
名前も顔もしっかりと覚えていたけれど、同じように再会を喜ぶ気は毛頭なかった。
変わらないままのジョジョと貧民街で暮らすシーザー。
道はとっくに分け隔てられていて、見下されているようにしか感じられない。
「こんなところに連れてきてどうするつもりだ?」
「今日からお前は此処で暮らすんだ」
「勝手に決めんじゃねぇよ」
当然、一方的に押しつけられた提案なんて受け入れられるはずもなかった。
「お前はあんなところに居て良い人間じゃないだろ」
「俺の何を知ってるって?」
笑わせる。
ほんの僅かの時間の思い出に縋って。
綺麗なところだけを見て、現実なんて見ちゃ居ないんだ。
「食い物も住処にだって困らない。悪い話じゃないだろ」
「ハッ。悪い話じゃないって?」
「不満なのかよ」
満足すると思っているのか逆に聞き返したい。
傲慢な子供だ。
満たされて、不幸なんて知らない幸せな子供。
「人をコケにするのも大概にしろよ、クソガキ」
「何だよ、その言い草は!」
「お貴族様の間では、人間を飼うのが流行ってんのか?」
両手に嵌められた手錠を前に突出し、鼻で笑う。
「次は首輪でも着ける気か?」
「違う!」
顔を真っ赤にして否定する子供を、酷く冷めた眼で見つめる。
殴り続けて二目と見れないようにしてやっても良いが、いっそ別の形で痛めつけた方が良いように思えた。
真っ直ぐにシーザーを見る眸。
期待させて、裏切ったらどんな色を宿すだろうか。
傷ついて歪む顔を想像すると可笑しくて堪らない。
ちょうど、退屈していたのだ。
「ジョジョ」
試しに、昔と似た声音で呼んでみる。
見開かれる双眸は歓喜に揺れ、躊躇いがちに手を伸ばしてきた。
単純な奴だ。
「少し、混乱してたんだ。こんな姿をお前に見てほしくなかった」
急に態度を変えても可笑しいと疑わないのか。
「会えなくなってから、ずっと探してたんだ…」
「ありがとう、ジョジョ」
「シーザー!」
抱きついてくる子供の頭を撫でながら、ほくそ笑む。
「なぁ、ジョジョ。これを外してくれないか」
「ダメだ」
「信じて無いのか?」
「…ごめん」
「ジョジョ」
名前を殊更優しく呼んでも駄目だった。
信じたい。
猜疑を孕んだ眼差しで、よく言ったものだと思う。
罵る言葉を飲み込んで、シーザーは眸を伏せた。
「まあ…仕方ないよな」
「ち、違う!そんなつもりじゃ…!」
否定するくせに、いつまで経っても鍵は取り出されない。
「怖いんだ…また、居なくなったらって考えると」
「大丈夫だ、ジョジョ。こうしてお前の傍に居るだろ」
いずれ、容赦なくお前の手を振り払うけれど。
「…近いうちに外すから、だから」
期限を告げない時点で、外す気が無いことが感じ取れた。
嘘ならもっと上手く吐けよ。
子供らしい狡い逃げ方だ。
この程度の拘束など簡単に外せるシーザーだが、無理に壊すことはしなかった。
屋敷の使用人だけなら未だしも、警察を呼ばれたら色々と厄介だ。
それに、罪悪感に苛まれながらシーザーを見るジョセフの姿は、鬱屈した心を少しだけ晴らしてくれた。
自分の用意した鎖でもがけば良い。



ジョセフがシーザーに向ける好意。
親愛とは異なるそれに気づかされたのは、その日の夜のことだった。
子供なりに、シーザーを何としても繋ぎとめたいらしい。
言葉は最初から信用してないと思ったが、手錠があっても不安は拭えないようだった。
「男に襲われる趣味はねぇぞ」
日が落ちてから部屋に現れ、シーザーが横になるベッドに乗り上げるジョセフをジロリと睨む。
「ちょっとくらい良いじゃん。嫌なのかよ…」
上目遣いで小首を傾げながら尋ねる様は、一見あどけなく思える。
しかし、ちゃっかりシーザーに乗り上げて腰を擦り付けてくるせいで、小悪魔にしか見えない。
マセガキめ。
己を棚にあげて、シーザーは内心毒気吐く。
キスを迫って近づく顔を手で制して、お子さま向けに額へキスを落としてやる。
違うと不満そうに唇を尖らせる様は、やはり幼い。
「今に見てろよ」
「どうする気だ?」
「こうするんだよ」
ベルトに手を掛けるジョセフは、下着の中まで潜り込み反応してないシーザーのモノを引っ張り出した。
「慣れてないんだな。早速ビビってるようじゃ、無理だろ」
自分で触れておいて固まるなんて馬鹿だ。
腰が冷えるジョセフを見て、シーザーは溜息を吐いた。
「他人のなんざ、まじまじ見る機会なんて無いからしょうがねぇだろ!」
「止めとけって」
女にも慣れてないような子供が、いきなり男を相手にしようなど自殺行為でしかない。
「煩い!」
シーザーの忠告に耳を傾けないジョセフは、手に握ったそれに唇を近づけた。


ぎこちないジョセフは、途中何度か茶々を入れられながらも諦めなかった。
「んっ、ふぁ」
屹立したシーザーのモノに指と舌を這わせる手つきは、やはり拙くて満足できるようなものではない。
「ヘタクソだな」
「んぐぅぇ…っ!」
「何言ってるか、分からねぇな」
わざと腰を突き上げてやれば、ジョセフがえずいた。
涙目で睨み上げてきても、制止の効果は無い。
「しゃぶるなら、全部口に入れてみろよ」
「むぐ…っ」
「上手いじゃないか」
頭を掴んで無理やり押し込む。
そのまま、上下に動かして喉の奥が締め付ける感覚を楽しんだ。
「可哀想に」
「んんっ」
「自分から始めたんだ。全部飲めるよな?」
容赦なく攻め立てたシーザーは、逃げようとする身体を押さえつけて口内に全て吐き出した。
「かっ、はっ、ゲホッ、」
「零れてるぞ、ジョジョ」
飲み込めず、口端から垂れる精液を指で掬いとり、口のなかに押し込む。
指を二本に増やして掻き回すと、ジョセフ自ら舌を絡めてきた。
マセているというより、エロガキだ。
経験が無さそうな割りにこれなら、下も期待出来るかもしれない。
ジョセフの下腹部に視線を向けたシーザーは、ペロリと唇を舐めた。
布を押し上げる股間部分を膝で強めに刺激するだけで、ビクリと震える身体。
「シー…ザー」
物欲しげな眼で見られ、逆に足を退いてやる。
「何だ?」
「…分かれよッ!」
「男をどうこうする趣味は無いって言ったはずだぜ」
「そんなこと…知ってる」
キッとこちらを睨め付けるジョセフを素っ気なく突き放す。
暫くその場で固まっていたようだが、ベッドの傍らにあったチェストから何かごそごそと取り出した。
「準備してたのか」
「うっさい!」
ベビーオイルらしきものを手にしたジョセフは、蓋を開けて掌に液体を垂らした。
余程、本気らしい。
「手が震えてんぞ」
「見るなよ」
「見える場所に居る方が悪いんだろ。何なら部屋を出るか?」
「…此処に居る」
自分から手を貸すつもりは更々無いものの、下衣を脱ぎ捨てて自らナカを慣らす様はシーザーを愉しませた。
「早くしろよ」
「…っ、んぁっ」
いつまで待たせるつもりか。
意地悪く言えば、ジョセフは意を決したようにシーザーのモノに再び手をかけた。
「ヤるなら自分で突っ込めよ」
出来るものなら、やってみろ。
「うぅ…っあ」
恐らく初めてなのだろう。
奮える身体に気付かないフリをして、続きを促した。
「ほら、しっかり動けよ」
全て飲み込んだジョセフは、腹に手を突いて上下に動く。
控えめな動きはやはり物足りなくて、腰を引っ掴ん勢いよく突き上げた。
「ひっ、やっ、んんっ」
「貴族の坊っちゃんが男狂いとはな。イイ話題になるんじゃねーのか?」
「シー、ざぁ、だからっ!他の奴…なんか、知る…かっ」
揺さぶられる中で、必死にシーザーだけだと繰り返すジョセフを見て苦い気持ちがこみ上げる。
「…言ってろよ」
「や、やだ、それやめッ…んっ」
思わず零れる本音。
ボソリと呟いたそれは、熱に浮かされるジョセフには聞こえて無い。
何も知らないくせに。
「んんっ…うぅ」
これ以上喋るな。
腰の動きを激しくして、反応の良い場所を狙う。
「んっ、ん、やっ、あぁっ」
ギリギリまで引き抜いて深く捻じ込めば、一際高い声を上げて達する。
「必死になって馬鹿な奴」
吐き捨てる台詞は部屋に虚しく響いた。



その後もジョセフは、毎日シーザーの部屋を訪ねた。
シーザーの上に跨って腰を振る姿は、日ごと色香を纏っていく。
ガキのくせに。
否、ガキだからか快楽に弱いようだった。
飲まれそうだ。
不覚にも思ってしまった自分に、有りえないと言い聞かせる。
遊びのつもりが、飲まれていく危機感が芽生えつつあった。
そろそろ潮時なのかもしれない。
気持ち悪いと拒絶して、愚かだと嘲笑ってやる。
手錠を見つめながらシーザーが考えていた矢先、部屋を訪ねてきたジョセフが明日どこぞの令嬢と見合いをすると打ち明けた。
他人事のように話す姿を見て、シーザーは呆れるよりも憤りを感じる。
自分には、将来の相手が用意されていて、約束された未来があって。
それなのに、シーザーに手を伸ばして。
「…とんだ茶番だな」
「は? 何か言ったか?」
聞こえないと不可思議な顔で近づくジョセフの手を掴んで、ベッドに引き倒す。
「うゎっ」
突然のことに目を丸くしている隙に上に覆いかぶさり、首筋に噛みつく。
「止めろって!」
「いつも散々人の上に跨って喘いでる奴がほざくんじゃねぇよ」
今日だってその気で部屋を訪れたんだろ。
普段と少し勝手が違うだけだ。
「シーザー!」
「黙れよ」
服を無遠慮に剥いで、いつもシーザーを受け入れる場所へと指を突き立てる。
情事を繰り返した身体は、あっさりと二本の指を飲み込んだ。
「んっ、んんぅ」
「嫌なら逃げれば良いだろ」
適当に慣らして、怒張した自身を挿入する。
うつ伏せにして、腰だけ持ち上げて突き上げた。
「しっかり銜えこんでる状態じゃ、説得力ねぇけどな」
「んんーっ」
「抵抗になってねぇぞ」
ベッドに顔を埋めるジョセフは、苦し気な声を零す。
何とか後ろを振り返ってシーザーを非難する視線を向けるも、それで止まるはずなどない。
笑わせる。
「そういう眼をすると余計に相手を煽るって学んだ方が良いぜ」
反抗される程、捻じ伏せてやりたいという気持ちがこみ上げる。
快楽に溺れさせて、自分から求めさせて。
「てめーは、喘いでりゃ良いんだよ」
熱に飲まれて、何も考えなくなってしまえ。


ジョセフを犯してどれだけの時間が経ったのか。
反応が無くなった身体をぼんやり見つめていると、ジョセフがベッドから這い出ようと動いた。
「…ふっ、あ」
「何処行くつもりだ?」
逃げる腰を押さえつけて、項に噛みつく。
「も、いい…だろ」
「いつもは、もっと強請るじゃないか」
そう、夜が明けるのが惜しいとばかりにシーザーに手を伸ばして。
逃げるどろこか、早く帰れと追い出すくらいだ。
「無理だって」
「散々好き勝手して、自分が満足して終わるんだから、たまには付き合えよ」
「そんなこと」
「喚くより啼けよ、ジョジョ」
いくら許しを乞おうとも、離さないけれど。
「折角、注いでやったのに」
「いっ、あっ」
太股を伝う精液。
孔から零れるそれを掬い上げて、指を捻じ込む。
「足りないのか?」
「要らねぇよ」
言葉と裏腹に、ジョセフの身体はシーザーの指を離さない。 素直に欲しいと言えよ。 指を引き抜いただけで、物欲しそうにヒクつく其処にシーザーは再び自分のモノを押し込んだ。
「へぇ…まだ元気なようだな」
途端、上がる悲鳴は甘さを孕んでいた。
掠れた声が、シーザーの劣情を刺激する。
「しーぃ、ざっ、」
「呼ぶんじゃねぇよ」
口を塞ぐ為に、初めて唇にキスをした。
キスというより噛みつくに近かったそれは、苦く血の味が混じった。



ぐったりとしたジョセフは、朝になると無言で部屋を出て行った。
ベッドから下りて覚束ない足取りで歩く後姿を冷めた目で見送る。
普段、絶対に残さなかった情事の痕が、くしゃくしゃになった服の下に残されている。
噛み後と朱く色づいたキスマーク。
衣服で誤魔化しきれないだろう場所に刻まれたその身体で、未来の妻となる女の前に立つのだろう。 想像するだけで愉快だった。 最初から手なんて伸ばさなければ良かったのに。
約束された幸せを手に、昔のことなど忘れていたら良かった。
他人のことを縛り付けて、自分だけ幸せな未来を築こうとするからこうなるのだ。
もうこの部屋を訪ねてくることは、きっと無い。
最後まで目を合わせないジョセフの態度が全てを物語っていた。
呆気ない幕切れ。
絶望に歪む顔は結局見られなかった。
追いかけて、扉の前で連れ戻してベッドにもう一度沈めたら良かったのか。
惜しい事をした。
残されたシーザーはひとり乾いた笑いを浮かべる。
元々、此処に居座るつもりは無かった。
すぐにでも飛び出そうかと思ったが、一気に力が抜けた。
疲労感も手伝い、そのまま瞼を閉じているうちに意識は遠ざかった。


その後、シーザーは一時間も経たないうちに目を覚ました。
気怠い身体を起こしてベッドに腰掛けると、手に嵌められたままの手錠を外した。
少しの間暮らした部屋は、貧民街にあるシーザーの住処より立派だったが、自分には合わないと思った。
ジョセフに関してもそうだ。
あのお綺麗なお坊ちゃんと自分が並んでいたことすら可笑しいのだ。
過去も現在も。
部屋の出口とは反対に歩いたシーザーは、錠も無くあっさりと開いた窓に拍子抜けする。
二階なら問題ない。
都合の良いことに、目の前に大きな木が生えている。
下を確認して窓枠に片足を掛けた。
「どこ行くつもりだ?」
部屋を飛び出そうとするシーザーをあるはずの無い声が引き止めた。
驚きに固まる身体の横に落とされる荷物の入った鞄。
「お前、見合いは?」
「蹴ってきた。最初からその気ねぇし」
昨夜のことも今朝のことも無かったようにケロッとしているジョセフが、はっきりと言い切った。
「そうかよ」
あの程度じゃダメージも受けないというわけか。
手を掴んできたジョセフを振り払っても、笑っている。
「出てくなら連れてけよ」
まだ人のことを縛るつもりか。
ベッド下に投げ捨てられた手錠に視線を向けるシーザーの意図を察したジョセフが、もう使わないと首を横に振った。
「だから、一緒に」
「断る」
手錠が無いから良いわけじゃない。
ふざけるな。
「じゃあ、勝手についてくからいーよ」
振り払うのは簡単だ。
拒絶はもうした。
けれど、コイツは怯むどころか嬉しそうに笑って。
シーザーの思い通りにならない。
「折角の人生を棒に振るなんざ、気が知れねぇな」
ジョセフは振り払ったシーザーの手をしっかり掴んで、それがどうしたと首を傾げる。
置き去りにしたところで、きっと追い掛けてくるのだろう。
確かな予感があった。
ならば、いっそ。
この手で愚かな子供を堕ちた場所に引きずり込むのも悪くない。
ジョセフを腕の中に引き寄せる。
「こういう時は、キスをしてくれるもんじゃねーの」
抱き寄せられると思って無かったジョセフが悪戯っぽく、唇を突き出す。
勿論、応えてやるつもりはない。
「調子に乗るな、スカタン」
額を指で思い切り弾いて、ぐしゃぐしゃと頭を撫でてやる。
いずれ、選んだことを後悔しやがれ。

繋ぐ手は、遠い日の二人を思い出させる。
人目を忍んで屋敷を逃げ出して。
向かう先は、誰も知らない場所。