同棲小噺詰め
【深夜の侵入者】
日付が変わって間もない頃。
シーザーの眠るベッドに、ごそごそと潜り込む影があった。
「ちょっと失礼」
眠っていたかもしれないという懸念も、遠慮もなく当然のようにシーツをめくって入り込むジョセフ。
「またか、お前は」
「ちょっとくらい良いじゃない」
二メートル近い身体をちょっとなんて表現するあたり、この男は自分というものを理解していない。
威圧感と存在感に気付け。
「狭いんだよ」
セミダブルのベッドは、シーザーとジョセフが寝るには窮屈だった。
キングサイズのベッドを買って二人で寝れば良いと言っているのに、ジョセフはいつまでも頷かない。
お蔭で同棲しているにも関わらず、それぞれの部屋にベッドが一つずつ並ぶという形になっている。
互いのベッドがないと喧嘩した時に困るというが、ソファーや床で寝れば良い。
喧嘩だってしなければ良いというのに。
「もっと、そっち詰めてくれよ」
シーザーの胸を押すジョセフの手を押し返すと、ムキになって力をかけてきた。
「そのまま落ちてしまえ」
口ではそう言いながらも、すぐにジョセフの身体を自分の傍に引き寄せて。
早く寝ろと言って額にキスを落とした。
【手荒い朝の挨拶】
朝、優しく名前を耳元で呼ばれるとか。
もしくは、羽のようなキスを唇に落とされるとか。
そんな甘いシチュエーションを期待してはいけない。
相手は、あのジョセフ・ジョースターなのだ。
「朝だぜ、シーザー!」
「ぐぁっ」
楽しそうな声でハッとして身構えた時には、もう遅い。
巨体に伸し掛かられ、シーザーは潰れた声で呻いた。
「ジョジョ…きさま普通に起こせと何度言えば分かるんだ」
「ちゃんと呼んだぜ?」
名前を呼んで起きなかったお前が悪い。
立ち上がって至極当然とばかりに主張するジョセフを、シーザーは胡乱気に見つめる。
絶対に嘘だ。
どうせ、保険にドアの近くで申し訳程度に名前を呼んだだけだろう。
上半身を起こしたシーザーは、痛む身体を摩りながら盛大な溜息を吐く。
「もっと色気のある起こし方は出来ないのか」
「色気ねェ…」
求めるだけ無駄だと分かっているものの、いい加減この起こし方は止めて欲しい。
シーザーが何気なく呟いた嘆きに、ジョセフは目を細める。
これは、何か企んでいる顔だ。
翌朝が思いやられる。
隣で大人しく眠っていてくれるだけで良いのだけれど。
【買い物での攻防】
買い出しに行かねばならない。
冷蔵庫の中身を確認したシーザーは、ジョセフに声を掛けた。
「出かけるぞ」
「いってらっしゃーい」
「お前も行くんだよ、スカタン」
手を振って見送ろうとするジョセフの腕を掴む。
「俺忙しいんだけど」
「漫画読んでるだけだろ」
手に持った本を取り上げ、閉じて机の上に置く。
ジョセフに夕飯抜きだと言えば、渋々ながら着いてきた。
そんな厭そうな顔するなよ。
文句言っていた割に、シーザーの持つカゴに目についた物をぶち込んでいくジョセフ。
意趣返しのつもりだろう。
面倒くさいことしやがって。
「買わないからな」
只でさえ、食費が嵩んでいるんだ。
ジョセフが入れた物を片っ端から戻すと、不満そうに睨まれた。
完全に臍を曲げられても面倒なので、コイツの好きな銘柄のアイスを一つだけ購入する。
そんなシーザーの気遣いがあったにも関わらず、ジョセフはちゃっかりカゴの中に新商品らしい菓子を数個入れてやがった。
レジに通すまで分からなかった為、その場で店員にこれは良いですと謝る羽目になった。
相変わらず手癖の悪い奴だ。
「気付かなかったんだから、良いじゃん!」
「調子に乗るなッ!」
未だ文句を垂れるジョセフの頭を叩いて、二人並んで家路を歩く。
反省しない隣の男をチラリと伺うシーザーは、買ったアイスは暫く隠してやろうと密かに誓った。
【構ってもらいたがり】
購入した食材を冷蔵庫に詰めて、干していた洗濯物を畳む。
ジョセフに手伝わせようかと思ったが、逆に邪魔される気がして放置しておいた。
帰ってくるなり、楽しそうに漫画の続きを読んでいるから割と大人しい。
今のうちに家事を済ませてしまおう。
なんて子供を持つ主婦のような思考の自分に、思わず苦笑する。
随分と所帯染みてきたものだ。
昔は、スケコマシだの何だのとジョセフにからかわれていたのに。
「…重いんだが」
考え事をしながら黙々と洗濯物を畳むシーザーの背に、不意に重圧がかかってきた。
確認するまでもなくジョセフの悪戯だ。
「お前も手伝え」
「えー」
「だったら、邪魔するな」
不満の声をあげるジョセフから身体をずらす。
勢いのまま転ぶことを期待したが、相手は同じように身体をずらしてもたれ掛ってきた。
「俺に構えって」
先刻まで一人で漫画を読んでいた奴がよく言う。
大方、読み終わって飽きたのだろう。
「後で構ってやるから、お前も畳め」
無理やり残りの洗濯物をジョセフに押し付ける。
これで黙るような男じゃないが、何もせずに隣で喋っていられるよりずっとマシだ。
ジョセフは、嫌だ面倒だと言いながらものろのろと洗濯物を畳んでいく。
本当は出来るくせに、わざと手際悪くやりやがって。
小さな反抗を笑いながら、シーザーは洗濯物を片付けていく。
「夕飯作るから、退けよ」
終わったところで、未だ背中に身体を預けるジョセフに声を掛けた。
どうせ、また腹が減ったと騒ぐに決まっている。
大人しく待っていろと先手を打つと、何故か後ろに着いてきた。
「なーなー、今日は何作んの?」
「パスタだ」
「昨日も食べたんですけどー」
「だったら、てめーで作れ」
「ヤダ」
しかも、キッチンに立つシーザーに後ろから抱きついてくる。
「邪魔だ」
メニューが気になったなら答えただろ。
向こうで座ってろと言っても、ジョセフは離れない。
「手伝う気が無いなら、出てけ」
「俺、味見役だから」
さも役割があるかのような言い方するな。
シーザーが咎めても、結局ジョセフはいつまでも付き纏って。
「あ、これ美味い」
ちゃっかり口と手を出して、つまみ食いまでしやがる。
ダイニングテーブルに夕飯を並べて。
二人並んで食べる間も、始終楽しそうにしていた。
美味そうに頬張る姿は見ていて微笑ましい。
「口についてるぞ」
「さんきゅ」
頬に不着したソースを指で拭ってやっても、にっこりと笑うだけで特に気に留めることもない。
全く、手のかかる奴だ。
夕飯を終えてすぐに、冷凍庫の奥に隠したアイスを見つけ出して。
「やっぱ、食後のアイスは良いよなァ」
シーザーに伺いを立てることもなく、封を開けた。
ソファーで雑誌に目を通すシーザーの隣にちゃっかり座って、スプーン片手にアイスを食べる。
「腹壊しても知らねぇぞ」
「へーきだって」
普段のジョセフの食べる量を考えて、その可能性は低いだろう。
それにしてもよく食べる。
呆れながら見ているシーザーに、ジョセフはアイスが乗ったスプーンを突き付けて。
「はい、アーン」
口を開けろと迫ってきた。
誰がやるか。
そう思ったけれど、唇に無理やり押し付けられると面倒なので大人しく口を開く。
しかし、スプーンに乗ったアイスはシーザーの口に運ばれることなく。
「なーんてな」
勝ち誇った表情を浮かべるジョセフの口に消えた。
「食べさせて貰えると思った?」
「…きさま」
「なあなあ、シーザーちゃん怒った?」
欲しかったわけじゃないが、おちょくられて腹が立ったのは事実。
構えというなら、上等だ。
とことん構い倒してやる。
ジョセフの手をがっしりと掴んだシーザーは、覚悟しろよと睨み上げた。