Mattare
最近、どうも可笑しい。
何が可笑しいってシーザーの様子だ。
まず、視線を合わせない。
喋りかけても目を逸らして話す。
出会った頃と違って意図的に無視されている訳では無い。
喧嘩だってした覚えはない。
アイツが手に入れた女の子の連絡先が書かれた紙をうっかり零したコーラで駄目にしてしまったことはあるけれど。
すぐに別の女の子をナンパしていたから、大した痛手では無かったのだろう。
「最近俺のこと避けてねぇか?」
遠慮するような間柄でもない。
敢えて単刀直入に聞くジョセフに、シーザーはバツが悪そうな表情を浮かべた。
避けられていることは明白だった為、欲しかったのは確証。
口籠ったなら、図星。
次に聞くのは理由である。
「俺、何かしたか?」
身に覚えが無いとは言わせない。
普段のシーザーは、修行に臨む態度や志が足りないとか、シーザーの持ち物をうっかり壊してしまったとか。
彼を怒らせるようなことがあれば、呆れ顔でくどくどと説教をしてくるのだが、今日はもごもごと言いかけて止まる。
珍しい。
というより、本当にどうしてしまったのか。
「聞こえねーな」
「…気のせいだろ」
素直に答える気はないらしい。
耳に手を当ててオーバーリアクションをするジョセフを苦々しい表情であしらったシーザーは、逃げるように去って行った。
「…気のせいなわけねーだろ」
誤魔化すならもっと上手くやれよ。
置き去りにされたジョセフから零れるのは寂しげな声だ。
最初はいけ好かない奴だと思っていたが、このまま避け続けられるのは耐えられない。
「俺が嫌だって言うなら、イタ公の好みに合わせてやるぜ」
距離を置くという考えはジョセフの頭にはなく、その眼は悪戯に輝いていた。
目にもの見せてやる。
前回のドイツ軍の時は衣装選びが悪かっただけだ。
「完璧だぜ」
鏡の前で化粧を終え、ドレスの裾を持ち上げてウィンクするジョセフは、自信たっぷりに笑う。
そして、部屋に帰ってきたシーザーを待ち構え襲撃した。
「シーザーちゃーん!」
ドアが開いた途端、渾身の力で抱きついてやる。
苦しそうな音が聞こえた気がしたが、構わない。
ギュウギュウと腕の力を込めてシーザーの顔を近づけた。
「汚いものを見せるな」
世の中の女性に謝れと叫びながらも、僅かに頬が赤い上に鼓動も早くなっている。
やっぱり、スケコマシには女が一番ってことか。
「なーに? シーザーちゃんたら照れてるの?」
慌てる様が可笑しくて、ジョセフは調子に乗って頬にキスを仕掛ける。
「ば、ばか野郎! 離さんかァ、ジョジョ!」
触れた直後、ジョセフを襲ったのは強い衝撃。
不意打ちに驚いた身体が傾き、床へと落下する。
ふざけ過ぎたかもしれない。
しまったという顔をしたシーザーの手が伸ばされかけて、止まった。
「俺に触られるのがそんなに嫌かよ…」
人をばい菌扱いするな。
そう思う反面、触られるのすら耐えられないと感じるくらい嫌われていたらどうしようと今更になって不安になる。
つい取り繕うことを忘れ、弱気な声が出てしまった。
瞬間、シーザーが息を飲むのを見た。
そんな顔するなら、振り払うなよ。
不満の次に浮かんだのは、これはチャンスではないかという考え。
先刻の殊勝な態度はどこへやら。
隙をついたジョセフは退くどころか、シーザーに再び抱きつく。
「お手てが空いてるぜー? シーザーちゃーん?」
中途半端に出された手を意味深に見て、本当に嫌なら突き飛ばしてみろと挑発してやった。
さて、次の反応は。
「…てめーのせいだ。人が折角堪えてたのに」
ジョセフが立てるいくつかの予想を裏切り、聞こえたのは小さな嘆き。
苛立ちと焦燥の混じる声に、まじまじとシーザーを見つめた刹那。
「責任とれよ、スカタン」
有ろうことか、シーザーはジョセフを睨んで口づけてきたのだ。
更には、恨めしげにお前のせいだと熱っぽい声で囁かれて、身震いする。
まさか、そんなこと。
聡いジョセフは、これまでのシーザーの言動から避けられた理由を察してしまい、固まった。
頬を撫でる手が優しく、名前を紡ぐ声は女の子を呼ぶよりずっと甘い。
誰だお前は。
嘘だろ。
呆然と立ち尽くすジョセフの手から力が抜ける。
その身体を離すまいと、今度は逆に強く抱きしめられた。
腰を抱くシーザーが、空いた手でジョセフに残る口紅を親指で拭う。
「この方がずっとセクシーだ」
本来の色を取り戻しても尚、唇を愛しげに撫でる指先。
ジョセフは羞恥に震え、拳を握りしめる。
しかし、男の名前を叫ぼうとした唇は、言葉ごと奪われてしまうのだった。
無自覚は性質が悪いとシーザーは言うが、自覚して迫ってくる男の方が最悪である。
完全に立場が逆転して、彼を避ける羽目になったジョセフは悔しげに唇を噛んだ。