Raddolcendo


初対面の印象は最悪。
嫌いなタイプだからシーザーと親しくなるなんて絶対に有りえない。
そんなジョセフの予想は、意外にもすぐに裏切られた。
目覚めた柱の男達と対峙して以来、シーザーの態度が急激に軟化したのだ。
同じ目的のもと修行を積む二人の距離が縮まるのは当然のこと。
互いに相手への不満や文句を口にして些細な喧嘩をするのだって本気じゃない。
シーザーという人間を知るようになって、厭な奴だと思うこともなくなった。
なくなったのだけれど、代わりに少々ジョセフを悩ませることがあった。
それは何かというと、あれだ。
シーザーがやたらと自分に構ってくることにある。
「何だよ?」
「気にするな」
こんな感じに、修行の合間の僅かな休息の時間にジョセフの隣にやって来てもたれ掛ったり、肩を組んで他愛もない話をしてきたり。
「もしもーし? 重いんですけどー?」
今回は後ろからか。
無遠慮に体重をかけてくる男に邪魔だと訴えるも、相手は聞く耳もたない。
「背もたれは黙ってろ」
勢いよく身体をずらせば、シーザーは床に転がるだろう。
そのまま地面にキスしてしまえ。
慌てる姿を見て笑ってやりたいのに、背中に触れる温度が心地よくて動けない。
女の子に自然な動作で触れている姿は何度か見たが、この男は果たしてこうもスキンシップ過剰であっただろうか。
記憶を辿ってみるものの、まずシーザーが男と並ぶ光景が想像できない。
「向こう行けよ、汗臭ぇ」
「お前がマスクしてるから良いだろ」
何が良いんだよ。
ふざけるな。
いい加減にしろと顔だけ後ろを向けた刹那、穏やかな眼差しが視界に入りジョセフは言葉を失う。
シーザーは気付けばいつもこちらを見ていて、目が合うと少し困ったように目元を緩めるのだ。
ジッとこちらを見透かす眼が苦手だ。
居た堪れなくなって視線を逸らした途端、頭を優しく撫でてくる手も。
子ども扱いとは、また違う気がしてどうして良いか分からなくなる。
嫌悪感を抱かないから余計に。
心地良くて、でも嬉しいなんて言えるはずもなくて、言葉で抵抗するのが精一杯。
手を振り払えない時点で、シーザーにはばれているのだろう。



ある日の午後。
買い出しに出掛けると言ったシーザーを前に、ついでにナンパでもしてくるに違いないとジョセフは白い眼で見送った。
つまらないとか、自分も一緒に行きたかったとか、そんなこと思ったわけじゃない。
だから、頭をポンポンと軽く叩かれて宥められるのも不本意なのだ。
「すぐ帰ってくるから大人しく待ってろ」
「俺のことは構わず、女の子と楽しんでこいよ」
「羨ましいのか、ジョジョ?」
「ケッ。てめーを羨ましいなんて思うかよ」
鬱陶しいの間違いだ。
「じゃあ、寂しいのか?」
「はぁ? 何言っちゃってんの?」
それこそ有りえない。
「さっさと行けよ。んでもって、帰ってくるんじゃねーぞイタ公」
こっちもシーザーが居ないが気楽でいい。
ジョセフが本心で言ったつもりの言葉に、シーザーは肩を竦めるだけだ。
信じて無いな、コイツ。
どうせ、街で女の子に声を掛けている間に自分のことなんて忘れる。
戻ってきたらスケコマシとからかってやろうと思っていたから、一時間を少し過ぎた頃に帰ってきたシーザーを見てジョセフは驚いた。
「うげっ」
「人の顔を見て失礼じゃないか」
反射的に声をあげたジョセフをシーザーが咎める。
「てめーがこんな早く戻ってくるとは思わなかったんだよ」
厭味っぽい口調にも関わらず、シーザーは気にした様子がない。
「あれれー? もしかしなくても、フラれちゃったの?」
「お前と一緒にするな、スカタン」
「強がるなって。何なら、このジョセフちゃんが慰めてやるぜ?」
ふざけてベッドの隣を叩く。
勿論、大人しく座るなんて思って無かった。
しかし、シーザーは当然のように隣に座ってジョセフに凭れかかってくる。
「…酔ってんのか?」
「慰めるって言ったのはてめーだろ」
フラれてなんていないくせに。
シーザーからは、甘ったるい女性特有の香水の匂いが全くしなかった。
宣言通りにシーザーは、島からの往復と買物に使ったであろう時間で戻ってきたのだ。
むしろ、早すぎる。
「なぁに、シーザーちゃんったら俺のこと心配で戻ってきたの?」
反論を期待して投げた言葉は、否定されることは無かった。
マジかよ。
自分の為だと頭では分かっても、素直に喜べないジョセフ。
「…お節介野郎」
「そうだな」
軽口を叩いても、シーザーは受け流してしまう。
こういう時のシーザーが一番苦手だ。
「シーザーちゃんのばーか」
「はいはい」
「スケコマシ」
茶化しても、怒らない上に笑って済ませる。
終いにはいつもの調子で頭まで撫でてくるから、ジョセフは落ち着かない。
「スケベ…ムッツリ」
「お前なぁ…」
思うままに単語を上げていると、少しだけシーザーの声音が変わり、触れていた体温が離れる。
いい加減呆れたのかもしれない。
おーおー、どこにでも行け。
これで清々すると思うのに、ぽっかり空いた隣のスペースと消えた温度に違和感が大きくなる。
そして、無意識のうちに立ち上がるシーザーへと手を伸ばしていた。
「ち、違うッ!これは」
うっかり服の裾を掴んでしまった手を慌てて離そうとするが、逆に捕らえられる。
「素直じゃないな、ジョジョ」
声は溜息交じりなのに、笑顔はやはり優しくて。
「どうした?」
屈んだシーザーに覗きこまれ殊更優しく尋ねられたジョセフは、言葉を飲んだ。
こんなところが厭だ。
甘くて、温かくて、溺れそうになる。
分かっていてやっているから狡い。
「仕方ねぇから、フラれて傷心のスケコマシを慰めてやるって言ってんだろ!」
飲まれて堪るかと虚勢を張る様を、彼はどう思っているのか。
たった一言、寂しいと告げれば素直に腕の中に入れることを知っているけど、ジョセフは告げることはないのだ。
この先もきっと。
「そりゃ有難いこった」
故に、シーザーは強がりを無理に崩すことをせず、仕方のない奴と笑って隣に立つのだろう。
本当に、甘い男だ。